脂質代謝が鍵! がん細胞への新たなエネルギー供給経路を発見 がん代謝研究に新たな視点、治療戦略への応用に期待
概要
ヒトの細胞では、ブドウ糖を酸化することで、生命活動に必要なエネルギー物質であるATP(アデノシン三リン酸)を産生しています。一方で、がん細胞は通常の細胞とは異なり、酸素が存在する場合でも酸素を使わずにATPと乳酸を産生(解糖系※)しており、この現象は「ワールブルグ効果」として知られています。解糖系は、がん細胞における主なエネルギー供給経路と考えられていますが、ATPの産生効率が非常に低いため、なぜがん細胞があえてこの非効率な方法を選んでいるのかについては、未だに多くの疑問が残されています。
大阪公立大学大学院生活科学研究科の佐々木 裕太郎大学院生(博士後期課程3年)、水嶋 初凪大学院生(2025年3月博士前期課程修了)、小島 明子准教授らの研究グループはこれまでの研究で、ショウガ科の熱帯植物Kencur(ケンチュール)の主要成分(EMC)が、がん細胞の増殖を抑制する効果を持つことを明らかにしており、本研究ではその作用メカニズムを分析。その結果、EMCは解糖系ではなく、脂肪酸の合成・分解によるATP産生(脂質代謝)を抑制していることが分かりました。また、EMCにより解糖系によるATPの産生量が増加したにもかかわらず、がん細胞内のATP量は減少したことから、がん細胞の主なエネルギー供給経路は、解糖系ではなく脂質代謝であることが明らかになりました。本成果は、がん代謝研究の出発点ともいえるワールブルグ効果の理論を補足・拡張する新たな知見を提供するだけでなく、がんの新規治療ターゲットの探索や治療方法の開発に繋がると期待されます。
本研究成果は、2025年5月2日に国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン速報版に掲載されました。

掲載誌情報
【発表雑誌】Scientific Reports
【論文名】Ethyl p-methoxycinnamate inhibits tumor growth by suppressing of fatty acid synthesis and depleting ATP
【著者】Yutaro Sasaki, Niina Mizushima, Toshio Norikura, Isao Matsui-Yuasa, Akiko Kojima-Yuasa
【掲載URL】https://doi.org/10.1038/s41598-025-00131-1